卒業
桜咲く春。卒業と入学、そして進級の季節です。
去年の初めにハルの生徒となったHちゃんも、間もなく高校生になります。
Hちゃんが初めてハルのところにやってきたのは中学2年の1月。それまでは他の塾に通っていたHちゃんですが、おばあちゃんの家の玄関に置かれていたハルの塾のチラシを見つけ、その場で言ったそうです。「おばあちゃん、わたしここに行きたい!」
Hちゃんは学校の数学の授業では完全に『置き去り』にされている子でした。ハルのところに初めてやってきた頃のHちゃんは、小学校で習ってきたはずのかけ算やわり算の解き方があやふやで、200×200=や1000×10=といった問題もひっ算でなければ解けない状態。1000-400=とか700+500=といった問題もすべてひっ算です。ところがひっ算ならば大丈夫かというと決してそうではなく、小数が出てこようものならまったく解けません。分数も2分の1+3分の2=5分の3と自信をもって答えてくれます。数学(算数)の学力的には小学校2~3年というところでしょうか。こんな状態ですから中学数学の正負の計算や文字式の計算など完全にお手上げです。中学に入ってからの数学の定期テストの点数は常に1桁。その数点も偶然の産物だったそうです。
そんなHちゃんは、学校の授業中に指名されたときにピンチを脱する方法を身に着けていました。それは涙。指名されると何も言わず、ただポロポロと涙を流します。学校の先生は泣く子に長く関わっていられるほどヒマではありません。「はい、じゃあ次の人。」とわからなくて泣いていた子がいたことなど忘れたかのように授業を進めてくれます。わからないことを咎められるわけでもなく、かといってじっくり説明してくれるわけでもない。この泣いている1人のために他の30人を超える生徒を犠牲にはできない。これが学校の現状です。
そんなHちゃんですから、ハルのところに初めて来た日から泣きっぱなし。数学の問題に「これ、どう?」と聞くだけで無言でポロポロと涙を流します。この過去に経験のないパターンに初日の最初の15分こそ戸惑ったハルでしたが、わからないことで叱られないために涙を流していることがわかってからは、ただひたすら「今はわからなくてもいいんだよ。わからなくて何回同じことを質問しても、ぜったいに怒ったりしないから。」をくりかえしていました。
当時中学2年のHちゃんでしたが、理解力は小学校2~3年程度。基礎が理解できてないところに中学の学習内容を詰め込むのでは、いずれ破綻することはわかりきっています。だからまずは小学校レベルの計算練習から始めることにしました。この時、1年とちょっと前、Hちゃんとハルに味方をしてくれたものがありました。それはコロナ。コロナの拡大で学校は休校が続き、家庭学習用に課題プリントは渡されていましたが、当時のHちゃんの実力では解けるはずなどありません。そこで学校から課されている毎日6時間の自宅学習のうちの半分を、計算練習に充てることにしました。ハルのところで1回解いてみて、できるようになった問題を自宅で繰り返し練習します。同じ問題を最低5回。ミスが多ければ10回でも20回でも、とにかくできるようになるまで繰り返します。
そして半年後。Hちゃんの真面目に計算プリントに向かう姿勢が功を奏しました。中3の前期中間テストの数学の点数は38点。「え、それだけ?」と言うなかれ。一桁からのスタートですからね。それも偶然の産物ではなく、ちゃんと理解して取った点数。「こんな点数見たことない!自分が取ったことが信じられない!」と誰よりも驚いていたのがHちゃん本人でした。
それからのHちゃん、無言で涙を流すことからはなかなか脱却できませんでしたが、それでも少しずつ、ほんの少しずつ、小さな声で「これ、わかりません。」と言うことができるようになり、卒業前の1ヶ月はほとんど(まだゼロではありませんでしたが)泣くことはなくなっていました。
将来のために技術を身につけたいし、腰が痛い、ヒザが痛いというおじいちゃんやおばあちゃんの役に立ちたいから、介護や福祉の道に進みたいというHちゃん。希望する進路につながる学校への進学も決まって、その顔は明るく輝いています。
来週は入学式。環境が変わるのを味方にして、涙ポロポロからも卒業できるといいね。ちょっとだけ泣かなくなって、ちょっとだけ強くなったHちゃんに幸あれ!!
2021.04.03 | | コメント(0) | トラックバック(0) | ある日の学習室